アルツハイマーから身を守るバイリンガル

語学学習を続けていても、普段教室の外で外国語を使う機会も無く、無駄に思えるというご意見を学習者の方から聞くことがありますが、実は長い目で見ると健康を左右する重要なテーマと言えるかも知れません。
超高齢化社会を迎えようとする先進国の人々にとって、健康に天寿を全うすることは大目標であり、多くの人たちはそのために身体に良い食物を摂取し、毒を排除し、運動を心掛け、頭を使う努力等、健康のための高い意識を持ち行動しています。
普段からそれらの行動を心掛けている人は、将来年齢を重ねた時の身体的ダメージを最大限に抑える事ができ、恐らく健やかな老後を迎えることができることでしょう。


しかし不安要素もあります。誰もが恐れている事の一つに認知症があります。働き盛りのバリバリ仕事をしている人に突然降りかかることもある不可解な脳の病気、特効薬が発見されていない世界で約2,400万人が患っている認知症を、バイリンガルの人は遅らせることができ、4~5年長生きするという研究結果が、近年世界の脳科学・脳神経学研究者により相次いで発表されています。
特に幼少の頃から2言語以上を学習することにより効果を発揮し、モノリンガルの人と比較して、1度に複数のことを並行して処理できるマルチタスク能力ないし、タスクの切り替えを素早く行える能力において優れており、バイリンガルの子供は注意を払い、計画的で、思考を整理することに長けているという研究結果が出ています。
完全なバイリンガルになればなるほど有利であるものの、大人になってからの第2言語習得も認知症を予防する助けとなるようで、脳を活性化する頭の体操はやればやるほど効果があり、2つの言語の切り替えによる頭の訓練を長い間続けることにより認知能力を高め、生涯に渡り恩恵を受け得ます。特に日本人が系統の違う西洋言語を習得することは、例えば英語圏の人がイタリア語を習得することに較べ、負荷の掛かるものです。別の言語を操ることは、ある意味その瞬間毎にクロスワードパズルを解いているようなものであり、特別な努力なしに自然と刺激的な活動を行うことで、言語習得、異なる文化の理解、コミュニケーションスキルや仕事の処理能力が向上し、生涯健康と長寿を実現することが可能な言語学習に対する投資は、将来多くの利益をもたらしてくれるものだと言えるのではないでしょうか。

*参考資料:
- “Delaying the onset of Alzheimer disease”(The Official Journal of the American Academy of Neurology, U.S.A.)
- “Being bilingual may delay Alzheimer’s and boost brain power”(The Guardian, UK)
- “Speaking multiple languages may help delay dementia symptoms”(NPR, Washington, D.C., U.S.A.)

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